Ⅰ
最近の新聞は、国内・国内のパックツアーの広告で埋め尽くされています。
旅行業界、盛んなのかピンチなのかはわかりません。
その中で見つけた「利尻・礼文3日間49,800円」の広告
すごいなあ、僻地だなぁ。行ってみたい
わたしの目の前には一瞬、荒涼とした砂浜と風になびく草の景色、そして、都心の100倍くらい大きな星々が瞬く真っ暗な夜空が見えました。
「誰かと一緒に行ってきなよ」と母
ちょっと考えてみる。
「ん~、思い当たる人誰もいないなぁ」
なんでかな。
わたしは軽めのアウトドアが好きなのに、そんな軽めなアウトドアさえ厭う人しか回りにいないのです。
「おまえのパートナーとかと行ってくればいいじゃないの」と母
パートナー・・・
昔昔、一泊で秩父のバンガローに泊まったことがあったっけ
パートナーは旅行経験の少ない人だから、バンガロー泊というのはどんなものか知りませんでした。
まず、フロが無いことに驚き、食事は全部自分で揃えることに驚き、木の葉を集めてゴハンを炊くことに驚き、バンガローの小屋ではテレビが見られないことに驚きあきれてしまいました。
山歩きをしたことの無い人には、ぴんと来なかったかもしれません。
「河のせせらぎを聞きながら眠るのって、よくない?」
って聞いたわたしに
「それって、なにが面白いの?」
と答えたパートナー
彼は近くにコンビニが無いと落ち着かない様子。
また、いつも見ているテレビ番組が見られない夜に不満でした。
誰でもキャンプや飯ごう炊飯ってわくわくするものだと思っていたわたしは、がっかりです。
それ以来、アウトドアは二度と行かなくなってしまいました。
Ⅱ
学生時代に二輪車に嵌まっていたわたしは、月間アウトライダーという雑誌のファンでした。
この、アウトライダーという本はほかのバイク雑誌とは違っていて、バイクでどこに行くか、というのが記事の内容でした。
旅も、いかに長い期間、安い旅行が出来たかというのがエライ世界です。
わたしもコールマンの白ガソリンコンロとラジウス、水筒、寝袋などを買い込んでビバークにも挑戦してたりしていました。ビバークというのは、山歩き用語で、テントを張らずに野宿することです。
ビバークこそしなかったものの、キャンプ場で貸しテントを借りて泊まる旅行も何度かありました。
これはお盆期間で、気ままに訪れた場所での宿が取れなかったときのことです。
オートキャンプ場は、家族連れで超満員
ライダーたちはキャンプ場の外れの海岸のすぐ近くに集まってテントを張っていました。
キャンプといっても、ライダーたちのキャンプはただ「寝る」だけです。
あと、歯を磨いたり、顔を洗ったり出来る水道とトイレがあればいいだけ。
いたって簡単ですね。
わたしが声をかけて、一緒に缶詰をつついた男性は、藪を隔てたところにビバークをしていました。
わたしたちのうしろのほうでは、オートキャンプの家族たちが大騒ぎをしています。
車からケーブルを引いてテレビのナイトゲームを見るパパ、ケーブルから分岐したランタンの光でゲームをする男の子とマンガを読む女の子。ママはウォークマンを聞きながらファッション雑誌を見ています。わたしたちのテントとは比べ物にならないくらい大きな3部屋もあるテントがたくさん建設されたオートキャンプ場は、さながら建売り住宅みたい・・・
「さーて、ゴハンも食べたし、花火をやるゾー」
と元気一杯なパパ
「えー、めんどくさいよぉ、それ、止めない?」
と男の子・女の子。
そんな光景をみて、わたしたちアウトライダーは困り顔
『うるさいよね、あの人達って・・・』
『家庭生活をそのまま持ち込んでるだけに見えるよ』
そんなふうな短い会話をしたあと、わたし達は夜の闇の中に続く砂の小路を歩いて小さな岬に出ました。
ちょっとした高台から、真っ暗な海が見えます。
水平線には烏賊釣り漁船の明かりが点々と散らばり、空を見上げると天の川が見えていました。
「何も無くても、キレイだよな」
「そうね」
わたしたちはぼーと夜の海と空を眺めながら、無為の時間を過ごしました。
「痒い!」
「ほんとだ。蚊が出てきたね。こんなところにも蚊っているんだね」
とわたし。
アウトライダーでも蚊はキライと見えて、わたし達は小高い岬をくだりました。
下のキャンプ場ではどこの家族も花火を終えたらしく、テントの中でゲームやらテレビやらと思い思いのことをしています。
「静かになったね、ボクはもう寝るよ。オヤスミ」
そういうと、彼はシートの上に横になり、寝袋の中にもぐって寝てしまいました。
翌朝、自然のあかりでごく自然に目覚めたわたしは、もう彼がいなくなっているのに気がつきました。
わたしも出発のための準備で荷物を取りまとめます。
そしてわたしも、太陽が昇っても誰も起きてこないオートキャンプ場を後にしました。
そんなわけで、アウトドアの人というのは、ほんとにごく少ない人種だと感じたのでした。

おしまい